果てなき闘争

のび「吹石一恵と〜ハメた〜いなあ〜!」

ドラ「はい、タケコプター!(ヴィィィ〜ン)」

一恵「アン♪ アン♪ アッ… アッ、アッアアッ、オッ、オッ? オッ? アッ! アッアッ! オッ? オッ? オッ! エッ? エッ? えっ? えぇ〜っ! えぇ〜〜っ! すっ、すご〜いっ!! わたし飛んでる!!」

みんなの職場にばばあはいますか。私の職場にはいます。とびきりのばばあがいます。フレッシュでもぎたてのばばあです。フレッシュでもぎたてのばばあはツムラ防風通聖散という漢方薬を愛飲しています。いわゆるダイエット漢方です。いわゆると言いましたがダイエット漢方なる言葉があるのかどうかは知りません。

ばばあは元気よく職場にやってくると、朝からデカい声でウンコみたいな家族の愚痴や薄っぺらい自虐風自慢をがなりながら、合間にサラサラっとダイエット漢方をあおる、そんな毎日を送っています。仕事はしません。めずらしくおとなしく仕事してるな…という時はたいてい楽天でショッピングをしていたりするので気を許せません。私はこのような場合、ばばあの席の後ろにあるシュレッダーに足しげく通う事により、プレッシャーをかけます。ムカつくから邪魔してやろうというわけです。しかしずる賢いばばあは、私が席を立つと同時に「カチカチッ!」と素早くマウスを操作し、ブラウザを最小化してエクセルのワークシートをアクティブにし、机に広げた書類に目を落とします。しかしその双眸は傍らに置いたスマホでLINEのタイムラインを追っている事は周知の事実です。

上司はそんなばばあに注意をしません。それどころか「ばばあさんはいつも若くてきれいにしてるね」などと、とめどなくゲロがあふれ出そうになる言葉を投げかけ、ばばあをその気にさせてしまいます。

「ばばあさんみたいな人の事を言う流行り言葉があるじゃない、何て言ったかな…」

上司がそう問いかけるとばばあは事もなげにこう言いました。

「ああ、美魔女?」

私は力強くデスクを叩いて立ち上がり、トイレに向かいます。わざと大きな音を立ててドアを閉め、用を足すフリをして悔し泣きをします。なぜ悔しいのかはわかりません。勝ち負けの問題ではない事はわかっていますが、ばばあに負けたくない気持ちがあるという事は確かです。せめてばばあの悪行をつまびらかにしてやろうと、ドアの音を立てないよう静かにトイレを出、足音を忍ばせてばばあの背後に迫ります。ばばあは、なんだかガチャガチャしたデザインのネットショップで件のダイエット漢方をカートに入れている所でした。

「ばばあさん、それって効くんですか?」

背後から話しかけるとばばあはビクンと一瞬背を伸ばし、驚きとへつらいと怒りがないまぜになったような色に目を濁しながら私を見上げ、こう言いました。

「一緒に買う?」

今度は私が驚きとへつらいと怒りがないまぜになったような色に目を濁す番でした。もしかしたらそれはばばあの精一杯の演技だったかもしれませんが、全く悪びれずにそう問い返され、私は簡単に動揺してしまったのです。それを悟られまいと虚勢を張り、「いらないっすよ〜」と笑顔を返して自席へ戻りましたが、その場に突っ伏して男泣きに泣いてしまいたい気分でした。泥のように濁った目をばばあに向けると、ばばあは上を向いてダイエット漢方をあおりながら、もう片方の手に持ったスマホでLINEのタイムラインを追っていました。天を仰ぎながらダイエット漢方とスマホを掲げるその姿は、まさしく勝利者のそれでした。