バカバカバスツアー2014 臨死!バカだらけ36時間!

なんかね、また今年も行くんだって言うんだよ社員旅行。だから俺、言ってやったの。「去年も行ったじゃないすか!」て言ってやったの。そしたら「今年はミステリーツアーに行きますから!」って言い返されちゃった。職場のボスにそう言われたら黙って頷くしかないよね。サラリーマンはみんなそうやってわずかばかりの金をもらって暮らしてるんだから。「みすてりーつあー?」ってかわいく首を傾げるのが精一杯の抵抗だなんて、まったくしんどい稼業だよな。

なんだかボスの話によるとミステリーツアーっていうのはどこに行くのか秘密にされていて、到着してからのお楽しみ!っていうものらしいんだけど、これ考えたやつと行くやつ気が狂ってるだろ。まあ、それくらいでなきゃ社員旅行なんて行くわきゃねえか。狂気にはより深い狂気を以って対峙するか、またはいっそ同化してしまうしか方法がないのかな…。ねえ、みんなはどう思う?って職場の面々を見たら、大まかな立ち寄りポイントを示した旅行日程を見て温泉の内容からすると新潟じゃないか?いや違うワイナリーに行くみたいだから山梨だ、いやいや海産物のお土産がつくから三陸だとか言いあってワイワイやっててもうバカだけかよこの職場まじで。俺うんざりよ。

で、結果、おおよそのコースが判明しちゃったからミステリーツアーはやっぱりやめましたっていう事になっちゃて、なんだそれバカかって思って、やっぱり静岡→愛知でお寿司食べ放題&メインが選べるリッチなディナーにするんだって。ああよかったなーって誰も思わねえよバカか。どっちだっていいよバカ。痛いか苦しいかの違いでどっちにしろ地獄だろうがバカが。それからというもの、仕事は手につかず、飯は喉を通らず、お腹が痛くなって、手が震えて、夜道で後ろから肩を叩かれて振り向いたらそこには社員旅行が…!という幻覚に襲われる毎日。気が狂いそう。

それでも時は流れちゃう。旅行の朝はやってきちゃう。集合時間にちょうどいい電車に乗ると同じ路線でやってくるバカに遭遇しちゃうんじゃないかと思って早めに出発しようと思ってたのに俺少し寝坊しちゃってさ。ソッコーで支度して家飛び出して、それくらい朝一番でバカどもの顔を見たくないっていう気持ちが強かったんだよ。だからホームに入って来た電車の窓からバカ二人が手を振ってるのを目にした時は絶望したな。マジで終わったと思った。仕方なくバカの上司とバカのばばあが並んで座ってるシートに腰下ろしてね。何話したかなんて覚えちゃいないよ。腹を減らしてテーブルについたらメラミンの皿にうんこが盛られて出てきたから仕方なく胃袋に詰め込んだみたいな気持ちっていったらみんなにもわかるかな?わかるわけねえよな!

そんで集合場所ね。ツアーの人が、だいたいみんな揃ってるから少し早めに出発しちゃいましょうって。まあ道路が混むかもしんないし全員揃ってんのに律儀に出発時間を待ってる理由もないからいいんじゃないの。そしたらボスが今年のお財布係の同僚にバスで食べるつまみ買って来いって言ってんの。いやいや、ツアーの人がもう行きますって言ってたでしょ聞いてなかったん?で、コンビニに行ったバカを横目に俺たちは先にバスに乗り込んだんだけど、まあ、帰って来なくてね。結局出発予定時刻の2分前くらいまで足止めくらっちゃって、ツアー客全員の10分前行動が功奏して実現した15分前出発がだいなし。しかも俺たちの席がバスの一番後ろでさ、両手にコンビニ袋持ったうちのバカが「いやどうも…」とか何とか言いながら、ツアー客の全員にバカ面を拝まれつつこっちに帰って来て、サンドイッチ配り始めて。他の乗客の顔は見えないけど、めっちゃ険悪だろこんなん。こんな空気の中で飯なんか食えるかバカと思ってたらみんなバリバリ袋開け始めてさ、バス中が一気にハムマヨ臭くなっちゃって。つか、こいつらどんなメンタルしてんだよ信じらんねえなまじでと憤る俺を乗せてバスは静岡県に向かって走り出したんだけど、これが36時間も繰り返される惨劇の序章に過ぎなという事を一体誰が予想できたであろうか。まあ、こうなる事は生まれる前から知ってた気もするけど。

果てなき闘争

のび「吹石一恵と〜ハメた〜いなあ〜!」

ドラ「はい、タケコプター!(ヴィィィ〜ン)」

一恵「アン♪ アン♪ アッ… アッ、アッアアッ、オッ、オッ? オッ? アッ! アッアッ! オッ? オッ? オッ! エッ? エッ? えっ? えぇ〜っ! えぇ〜〜っ! すっ、すご〜いっ!! わたし飛んでる!!」

みんなの職場にばばあはいますか。私の職場にはいます。とびきりのばばあがいます。フレッシュでもぎたてのばばあです。フレッシュでもぎたてのばばあはツムラ防風通聖散という漢方薬を愛飲しています。いわゆるダイエット漢方です。いわゆると言いましたがダイエット漢方なる言葉があるのかどうかは知りません。

ばばあは元気よく職場にやってくると、朝からデカい声でウンコみたいな家族の愚痴や薄っぺらい自虐風自慢をがなりながら、合間にサラサラっとダイエット漢方をあおる、そんな毎日を送っています。仕事はしません。めずらしくおとなしく仕事してるな…という時はたいてい楽天でショッピングをしていたりするので気を許せません。私はこのような場合、ばばあの席の後ろにあるシュレッダーに足しげく通う事により、プレッシャーをかけます。ムカつくから邪魔してやろうというわけです。しかしずる賢いばばあは、私が席を立つと同時に「カチカチッ!」と素早くマウスを操作し、ブラウザを最小化してエクセルのワークシートをアクティブにし、机に広げた書類に目を落とします。しかしその双眸は傍らに置いたスマホでLINEのタイムラインを追っている事は周知の事実です。

上司はそんなばばあに注意をしません。それどころか「ばばあさんはいつも若くてきれいにしてるね」などと、とめどなくゲロがあふれ出そうになる言葉を投げかけ、ばばあをその気にさせてしまいます。

「ばばあさんみたいな人の事を言う流行り言葉があるじゃない、何て言ったかな…」

上司がそう問いかけるとばばあは事もなげにこう言いました。

「ああ、美魔女?」

私は力強くデスクを叩いて立ち上がり、トイレに向かいます。わざと大きな音を立ててドアを閉め、用を足すフリをして悔し泣きをします。なぜ悔しいのかはわかりません。勝ち負けの問題ではない事はわかっていますが、ばばあに負けたくない気持ちがあるという事は確かです。せめてばばあの悪行をつまびらかにしてやろうと、ドアの音を立てないよう静かにトイレを出、足音を忍ばせてばばあの背後に迫ります。ばばあは、なんだかガチャガチャしたデザインのネットショップで件のダイエット漢方をカートに入れている所でした。

「ばばあさん、それって効くんですか?」

背後から話しかけるとばばあはビクンと一瞬背を伸ばし、驚きとへつらいと怒りがないまぜになったような色に目を濁しながら私を見上げ、こう言いました。

「一緒に買う?」

今度は私が驚きとへつらいと怒りがないまぜになったような色に目を濁す番でした。もしかしたらそれはばばあの精一杯の演技だったかもしれませんが、全く悪びれずにそう問い返され、私は簡単に動揺してしまったのです。それを悟られまいと虚勢を張り、「いらないっすよ〜」と笑顔を返して自席へ戻りましたが、その場に突っ伏して男泣きに泣いてしまいたい気分でした。泥のように濁った目をばばあに向けると、ばばあは上を向いてダイエット漢方をあおりながら、もう片方の手に持ったスマホでLINEのタイムラインを追っていました。天を仰ぎながらダイエット漢方とスマホを掲げるその姿は、まさしく勝利者のそれでした。

【1】

昔のことを思い出そうとすると真っ先に頭に浮かぶイメージがある。山に落ちかけた夕日。紅く燃える高い空。家路につく子どもたちの嬌声。どこからか漂ってくるうまそうな夕餉の香り。俺は自室のソファに腰掛け、平和で牧歌的な窓の風景を眺めながら日課のバーボンを傾ける。そんな光景だ。
古い一人掛けのソファを軋ませて背を預け、そっと目を閉じる。ロックグラスに残ったバーボンが日暮れと共に闇に溶ける。眠りはすぐにやってくるだろう。だが俺に許された眠りの時間はいつもごく僅かだ。遠くから聞こえる忙しげな物音。生立ちや性格まで読み取れそうな乱暴な足音。やがてけたたましい銅鑼の音と共に爆発するような大声が届く。

「ごはんやでえ!!!」

俺は諦めと共にゆっくりと目を開く。サイドテーブルのバーボンは完全に闇と同化してどす黒く淀んでいた。

ダイニングの固い椅子に腰を下ろして手を組み、父に感謝の祈りを捧げる。馬鹿馬鹿しい習慣だがとりたてて拒否する理由もなかった。年季の入ったシルバーを手に取り、マリネした海老が添えられたカクテルサラダをつつく。

「ちょっと!あんたドリルどないやねん!算数ドリル!!」

脂肪を蓄えたぶよぶよの体を震わせながら、母はまるで祈りの言葉のように毎日同じ質問を投げかけた。ポロネギの風味が効いたヴィシソワーズを口に運びながら、俺は視線だけでそれが順調に進んでいる事を伝えた。

「あんたくらいの子ぉはみんな外でベンキョーしてんねんでほんまに!来年っからランドセルなんやからしっかりやらな死ぬでほんま!!」

幼稚な遊び場に用はなかった。俺は外界との接触を避け、座り心地の良いソファのある自室に留まる事を選んだ。日中、誰もいない屋敷に一人で過ごす事を苦痛に感じた事はなかったが、周りの人間はそうは思わなかったらしい。せめてもの慰みに与えられた算数ドリルは俺に退屈と徒労を教えてくれた。穴を掘り、埋め戻すだけの作業を強いる拷問があるらしいが、身体を鍛える事が出来る分算数ドリルよりはましかもしれない。

メインは仔羊のパイ包み焼きだった。好物だが喉を通らなかった。無言でテーブルを離れると背後から母が何か言ったが、無視して自室へ戻った。カーテンを開き、部屋の明かりを落としてソファに腰掛ける。サイドテーブルに置き去りにされた闇の塊のようなグラスの中身を飲み干し、夜の帳の降りた窓の外を眺めながら、ほんの数時間前にこの窓から見た風景を思い出そうとした。

地表で太陽が燃えたかのような激しい光と熱の中に、彼女はいた。窓の形に切り取られた外の景色の中で、その存在は全くの異物に見えた。あの時、俺はまさしく恋をしたのだと思う。

おわりのはじまりのおわり

俺は歳を取ってだんだん昔のことを覚えていられなくなった。幼かったあの頃、本当にケンちゃんはいつも鼻をたらしていただろうか。俺の目の前で浜野さんのスカートをめくり、返す刀でパンツをずり下ろした小さなヒーローは本当に木下君だっただろうか。今となっては全く確信が持てないけれど、木下君だったとしたらマジでありがとう。
そんな忘れかけたあの頃の本当に大切な出来事を、なるたけ正確に記録しておきたくなった。それは俺と小さな恋を育み、そのせいで汚されてしまった由美ちゃんとの思い出に他ならないのだがまずはぜんぜん関係ない事でも書くか〜!

自宅から一番近い所にある自販機が地方都市の象徴である所の100円自販機なんだけど、そこにマンゴーカルピスっていう卑猥な名前のドリンクが平気な顔で売られてるのでこんな町で子を産み育てるなんてノーフューチャーだから我が家にはなかなか赤ちゃんがやってきません。もしくは俺の種がすでに…、フッ、まさかな。めんどくさがってあんまりセックスをしてないからに決まっているさ!!